とある一冊への感想文

少し前に、私の父が本を一冊上梓しました。

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父は、恐らく現代に生き残った最後の《活動屋》世代の1人ではないかと思います。今の若い人は活動屋と言われてもちんぷんかんぷんでしょうし、団塊あたりの年代の人だったら「全共闘時代の闘士かい?」と思われるかもしれません。
私が子供の頃、父とその仲間たちが自宅で飲み騒いでいたとき、彼らは確かに自らをそう呼んでいました。かすかな自己卑下と自恃の念が入り混じった、不思議に誇らしげな口調だったと記憶しています。

その昔、日本に移植された映画はまず《活動写真》と呼ばれました。だから《活動屋》とは今で言うなら映画人。役者以外の、企画・製作に携わる業界関係者を指す名称なのです。
私が子供の頃、めちゃくちゃ狭い一軒家の居間で深夜酒盛りをしていたのは、父と父の仲間たち──若くて野心的な活動屋さんたちでした。今では映画業界もすっかりソフィスティケートされて、それなりにオシャレな職業分野にカテゴライズされているのでしょうけれど、あの頃はどこかバンカラな、胡散臭い、文字通り“堅気でない”人びとの集う場所だった気がします。

この本の中でも語られていますが(インタビューをまとめた本なのです)、私の父は映画界が不振になってゆく下り坂の時代に、映画監督を志してこの業界に入りました。途中で進路変更しプロデューサーの道を選んだのは、父にとって大いなる挫折であったかもしれません。でも、父は、大好きな映画の世界で自分の納得できる仕事をするため、そのために終始一貫して最大限の努力をしてきた人です。今の時代に父が手がけた“にっかつロマンポルノ”が再評価され、長谷川和彦や相米慎二を世に送り出した男として認められているというのは、私にとっても非常に喜ばしいこと。「よかったね」と片隅でそっと祝辞を述べたい気持ちです。

知名度や興行成績で言えば『セーラー服と機関銃』や『あぶない刑事』シリーズが父の代表作なのでしょうが、私が好きなのはジュリーこと沢田研二と菅原文太を共演させた『太陽を盗んだ男』かな。今でもマニアックな映画ファンの間で評価の高い映画です。
もっとも、不肖の娘であるところの私は、父が作った映画のほんの一部しか観ていません。たとえDVDででも、もう少しその仕事ぶりを見届けておかないと座りが悪いな、と思っています。



ひたすらダンスに打ち込んでいたかつての私に、父がある時こんな言葉を投げてきました。
「好きなものを仕事にすると、辛いぞ」
──普通は職場で辛いことがあっても、自分の好きなものに触れて心を慰めることができるけれど、その《好き》を仕事にしてしまったらもう逃げ場がない。大体そんな意味の話だったと思います。

私は結局《好き》をまっとうすることができませんでしたが、父はいまだにその場所でこだわり続けている。生涯現役であろうとしている。私にはわからない修羅の道を踏破していく父の姿が、活字の間からいぶし銀のような眩しさで浮かび上がってくる──私にとって、この本はそんな一冊でした。
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伊地智恭子

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